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まずは読んだ本の紹介……そして広がる世界……だといいなあ

022) 黒澤明の「天国と地獄」(1963年)を観る

黒澤明の「天国と地獄」(1963年)

 

 


工場からたたき上げで出世した靴会社の常務・権藤(三船敏郎)の家に、
他の重役たちが社長の追い落としをすべく協力を要請しにやってくる
しかし、利益しか考えない他の重役との話は物別れにおわる
他の重役からも、社長からも、会社の実権を奪うために、権藤は株を買い占めようとしていた
全財産をはきだし、そのための資金5000万円を用意し、部下を大阪を飛ばそうとする


そんな時、部屋の電話が鳴る
「あなたの子どもは私がさらった」


「子どもは必ず取り戻す、金はいくらでも払う」と決意する権藤だが、
そこに「ママ~」と部屋に帰ってくる子ども
さらわれたのは、権藤の運転手の子どもだったのだ


子どもを取り違えたことを知った犯人から再び電話がかかる
「子どもが誰だろうと、3000万円、お前が出すのだ」

 

しかし、身代金を払えば、権藤は地位も財産も失うことになるのだ……


身代金を払うのか、払わないのか……


この映画の前半は、権藤の邸宅の大きなリビングを舞台に進む
カメラは、まるで舞台劇のように、ほとんどこの部屋を出ることはない


しかし、半ば以降
身代金を渡すために 特急第二こだまの乗るシーンから
一転してカメラは外へと飛び出していく


権藤(三船敏郎)から、戸倉警部(仲代達矢)へと主役は変わっていく


子どもは返したもののの、まんまと身代金3000万をせしめた誘拐犯(山﨑努)
かれを追い詰めていく刑事たちのドラマをていねいにていねいに描いていくのだ


この映画は白黒映画だが、一瞬だけ、色がつくシーンがある
警察が仕掛けた罠が発動し、犯人にぐっと近づくシーンだ


白黒の画面に、ピンク色の煙

思わず、「おおお」という声を、ぼくは出していた

 


日本の古い映画のおもしろさの根底に
イケメン俳優なんて一人も出てこないことがある
(仲代達矢、山﨑努がイケメン枠????)


一癖も二癖もあるようなおじさんたちばかりだ


あ、「白い巨塔」(もちろん1978年の)の東教授だ! とか
あ、黄門さまが二人も出てる! とか
その他さまざまなチョイ役を発見する楽しさ

 

この映画の舞台は横浜と江ノ島電鉄沿線であり
後半、映画が街に出ると、さまざまな風景に出会える

 

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(これは現代の江ノ電

 

権藤が住む丘の上の大邸宅と、犯人が住む丘の下の街の対比が描かれ、
それは、言い換えると、高度経済成長の光と影になる
まさに、「天国と地獄」の風景


例えば、
「窓が開かない」ビジネス特急こだま
ガラガラの自動車専用道路(横浜新道かな)
……まさに高度経済成長の象徴であり、


それに対して、その成長に取り残されるもの……


横浜浅間町、路地だらけの街並、ゴミだらけの小河川
ワイシャツまで汗びっしょりの男たち
繁華街の大きなレストランバーで踊る米兵
日本語、英語、ハングルで書かれたメニュー


さらに、ラストシーン間近
黄金町の麻薬街!!!

 

そこに描かれる風景は、流行りの「昭和レトロ」では決して語られることない昭和がある