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まずは読んだ本の紹介……そして広がる世界……だといいなあ

015) 数学の天才とその悲劇……天才って何だろう?

マギー・ホープ

 

アメリカで育ったイギリス人の女性
数学が得意でMITの大学院入学の権利を持つが
学費調達のため、祖母の家を売るために、ロンドンに向かう
古い祖母の家はすぐに売ることはできず、管理をしている間に
時局は急激に動き……

 

1939年9月1日ナチス・ドイツポーランドに侵攻
イギリスもドイツに宣戦……いわゆる第二次世界大戦がはじまる

 

1940年5月10日もともと融和派だったチェンバレンに替わって
主戦派のウィンストン・チャーチルが首相としてイギリスを指導することになる

 

この状況下でマギーは首相の秘書官に就職しようとするが
「女だから」という理由で不合格になる
そのかわり友だちの推薦でタイピストの職を得て
首相官邸で働き始めるのだった

 

ここから、マギーの活躍が始まる

 

これは
チャーチル閣下の秘書」(創元推理文庫) スーザン・イーリア・マクニール 
というお話

 


戦時下のロンドンを舞台に
暗号を解読し、スパイ、テロリストと戦うマギー


なるほど、シリーズ化されるわけだ、と納得しながら楽しく読むことができる
まだ、シリーズを全部を読んでないけどねw


チャーチル閣下の秘書」を今回読んだのはたぶん2回目になるのだが、
前回気づかなかった話の背景に気づくと、より楽しく読むことができる
まあ、それが歴史を題材にした娯楽小説の面白さなのだろう



……
賢明なる読者のみなさまは、すでにお分かりだと思うが、
今回、マギー・ホープ嬢の活躍を取り上げたのは
前回の「算法少女」からのつながりである

 

 

そう、数学の天才、それも若い女性というつながり


(おおもとの和算書は別にして)ジュブナイル小説「算法少女」にしても
ミステリ「チャーチル閣下の秘書」にしても、もちろんフィクションだが、


マギー・ホープが活躍したまさに同時代
実際に若き女性の数学の天才がいた、その名をジョーン・クラークという

 

ja.wikipedia.org


彼女、ジョーン・クラークは圧倒的男性優位の社会で
ナチス・ドイツの暗号解読に活躍したのだ


チャーチル閣下の秘書」に、ジョーン・クラークの名は出てこないが
そのパートナーの名前はちょくちょく出てくる


そう、本当の数学の天才、
そして、アーベルやガロアと並び、数学史上、最も悲劇的な一人
ドイツの暗号機械エニグマ解読リーダー
アラン・チューリング

 

ja.wikipedia.org

 

アラン・チューリングという人を知らない方は
これを読んでいる手元を見てほしい

 

スマートフォンタブレット?PC?
何らかの媒体でこれを見ているはず
そうその媒体、わかりやすく言えばコンピュータ


彼は
このコンピュータの概念(チューリングマシン)を構想し、
世界初のプログラム可能な電子式デジタル計算機Colossusにかかわる
(実際に制作したわけではない)
また、ある機械が「人間的」であるかどうかを判断するチューリング・テストを提案した


現在のコンピュータ社会、そしてAIの発展を考えるうえで
彼の存在はあまりにも大きい


そして、彼の主導した暗号機械エニグマの解読が成功していなければ
果たしてイギリスはナチス・ドイツの軍門に下らずにいられたろうか


第二次世界大戦を自由とファシズムの戦いとしてみたとき
自由な社会の存続に果たした彼の存在もあまりにも大きい


このアラン・チューリングの悲劇(とジョーン・クラークのかかわり)を描いたのが
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(The Imitation Game、2014年)
という映画である

 

 


いろいろ誇張や事実と違うことも多いのだろうが、
シナリオがいいので、ついつい引き込まれる映画だ
アラン・チューリングの果たした役割と、そしてその悲劇が見る人の心にしみるだろう


アラン・チューリングの悲劇?


アラン・チューリングとブレッチリー・パーク(政府暗号学校の所在地)の面々の業績は
戦時中はもちろんのこと、戦後も長いこと極秘だった


戦後イギリス政府は、接収したドイツの暗号機械エニグマを旧植民地にばらまいたのだ
自分たちだけは解読できることは、当然極秘になった


その結果、世界最初のコンピュータの一つColossusは知られることがなく
(このほかにもコンラート・ツーゼのZ2、Z3、Z4などもある)
一般的には1946年ENIACの完成が世界最初のコンピュータといわれ続けた


戦時中アラン・チューリングとジョーン・クラークは婚約をしたが、
それをアラン・チューリングはのちに破棄する
というのも彼は同性愛者だったのだ
ジョーン・クラーク自身はは「そんなことどうでもいい」という態度だったらしいが……


戦後……
アラン・チューリングは若い男性と一夜を共にした
その後自宅に泥棒(その若い男性)が入ったことで
彼が同性愛者であることを警察の知ることとなる


当時のイギリスは同性愛であることは違法である
彼は公職追放され、女性ホルモンの投与される


そして
1954年 アラン・チューリングは自殺をする、41歳だった

 

アラン・チューリングの人生ついては以下の本を参照した

「数学者列伝 天才の栄光と挫折」 (文春文庫) 藤原 正彦 (2008年)

 

 


国家のために人生をささげ、その国家を敗北から勝利に導いた天才は、その国家によって殺されたのだ


天才って何だろう???
その答えを人類はいつ出すことができるのだろうか?