過去との対話を楽しめる…そんな人間でありたい

まずは読んだ本の紹介……そして広がる世界……だといいなあ

028) アニメではなく、アニメーションのお話

「よく かけとる だが…… きみは マンガ映画は 作れんな」
タンバササヤマからきた宮本武蔵少年は、40年もマンガ映画に身をささげている断末磨老人に、自分の絵を否定される

 

「先生 待ってください」と、武蔵少年は懇願する。
「どうして ぼく作れないんです 教えてください どうぞ わけを 教えて ください!!」

 

「きみの 絵は動きが 死んどる!!」
「フイルムは 生きておるんじゃ!」 老人は一喝する

 

手塚治虫『フィルムは生きている』(手塚治虫漫画全集55 1977年 p12) より

 


このマンガが執筆されたのは1958年、アニメーション制作自体がまだまだ未熟な時代
アニメーション制作に夢を見る宮本武蔵とライバル佐々木小次郎のお話

 

武蔵の「妹」になり、応援するヒロインお通さんがかわいい
(「彼女」ではなく「妹」になるのが、当時の大人の事情)
髪の毛を切って男の子格好もするし……
今どきといえば、今どきのヒロインだ

 

武蔵と小次郎のラストの決闘(むろんアニメーション制作の)も熱いし、
武蔵少年の……当時の手塚治虫の情熱にあふれるこのマンガを、ぼくは愛してやまない

 

さてさて、ぼくも多分に漏れずアニメで育ってきたわけで、
アニメーションが大好きである


二か月ほど前
サン=テグジュペリの「星の王子さま」(内藤 濯・訳)「あのときの王子くん」(大久保ゆう・訳)のことを書いた

 

tankob-jisan.hatenadiary.jp


そこで「星の王子さま」つながりで
『リトルプリンス 星の王子さまと私』(2015年)を観る

 


名門学校入学の準備のために、ある街に引っ越してきた少女は、母に「人生設計」を提示され、一分一秒も無駄にしない生活を送ることになる
しかし、隣の家の風変わりな老人が語る、かつて彼が砂漠で会った少年「星の王子さま」の物語に少女は興味を持つ
そして、少女と老人は友人になり……


楽しいアニメーション映画である


現代のCGアニメーションはやはり素晴らしい
リアルであり、ディフォルメされ、スムースであり、コミカルである


アニメーション、それも3DCGだから表現できる動き満載!


一方、老人が少女に語る「星の王子さま」のお話部分は
話を聞いている少女の想像の世界といってもよいが
和紙などを使ったストップモーションアニメーションで作られている


原作の挿絵のイメージがやはり強いので
そこを和紙の持つリアリティな質感を生かしたアニメーションになっている


ディジタルのCGが作品上、リアルな世界で
アナログの和紙で作られたものが、空想の世界
考えてみると、ちょっと不思議


二つの世界が混合するアニメーションということで、
ぼくが思い出したのは、1945年に作られた『錨を上げて』という映画だ

 


休暇上陸でハリウッドにやってきたふたりの水兵の恋物語
ジーン・ケリーフランク・シナトラの二人が踊ったり、歌ったりする、それは楽しいミュージカル
ジーン・ケリーのダンスのすばらしさは言うまでもなく
シナトラが、今のアイドル的立場で、優男役なのも、その後の彼を思うと、とても面白い
さらに本人役で出演のホセ・イトゥルビのピアノも素晴らしいよ!


さらにここで取り上げたいのは、物語の中盤
ジーン・ケリートムとジェリーのジェリーとのダンスだ
そう、実写のジーン・ケリーと、アニメーションのジェリーが共演する


実写とアニメーションの見事な調和
1945年、そうまだ戦争が終わってない時期に公開された映画とはとても思えない
YouTubeにもクリップが上がっていると思うので、興味あるかはぜひ~
もちろん、本編を見たほうがはるかに面白いですがね


さて、
ストップモーションアニメーションは静止している物体を一コマずつ撮影して、動くように見せる
紙、切り絵、人形、クレイなど、さまざまなものを使う
なかでも、クレイアニメーションの『ピングー』が有名だろう


今はCGアニメーションが主流になったので、ストップモーションアニメーションは数が減ってきている


そのような状況の中で、
ストップモーションだけで作られた映画もあるという
それは、観るしかないでしょう!


というわけで『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)を観る

 

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(字幕版)

 

和風のファンタジー世界で、魔法の三味線を持つ碧眼の少年KUBOが擬人化された猿とクワガタとともに
父と母、そして自分の左目を奪った、祖父である月の帝と戦わねばならない物語である


KUBOが三味線を奏でると、折り紙が動き出し、物語を紡ぐ
命を与えられたかのような折り紙の動きは見事だ


折り紙だけでなく、パペットの動きには独特のギクシャク感がある
CGの滑らかさとは違うストップモーションならではの動き


敵キャラのがしゃどくろのパペットは5mの高さになるという
(エンディングで、スタッフがそれを動かすシーンを垣間見せてくれる)
これを一コマ一コマ動かす、まさにストップモーションアニメーション
迫力満点の映像を楽しめる


というわけで、3本の映画を紹介してみた
錨を上げて』を別として、
『リトルプリンス 星の王子さまと私』『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は現代のアニメーション映画であり
言ってしまえば「子ども向け」になるだろうが、十分に楽しむことができた
たぶん、動きをみているだけで楽しいからだ


生命のないものにanima(魂)を与えて、動かす
それがアニメーション


フィルム(今どきフィルムは使わないけどw)は生きておるんじゃ!


次回はアニメーションではなくて、アニメの話の予定